恋を忘れたバレンタイン
 今まで会話すらまともに出来なかった彼女が、自分のマンションに居る事を改めて実感した。なんだか、奇跡のようで今にも泣き出しそうだった。


 彼女は、流されるままに風呂に入っていった。風呂に入れば、帰らせない理由はいくらでも出来ると、俺の中の悪魔が囁いている。


 女子社員達のおすすめのうどんをネットで検索しながら、何年かぶりの料理に挑戦した。今まで、好きな女のためにここまでした事があっただろうか? 
 でも、俺は彼女の為に出来る事が、嬉しくて仕方なかった。

 今まで、何人かの女性と付き合った事はあるが長続きしなかった。今になって理由が、なんとなく分かった。

 彼女じゃないからだ…… 
 俺は、きっと彼女じゃなきゃダメなんだと思う……

 彼女が風呂から出て来る音に、急いで廊下へ向かった。寝室に入って、スーツに着替えられたらまた面倒な事になる。



 彼女にうどんをもてなす。


「ありがとう…… 自炊しているの?」


「いいえ、初めて作りました」



 俺の言葉に、一瞬彼女の表情が固まったが、今は気にしない事にしよう……
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