恋を忘れたバレンタイン

「どうしましたか？　何か欲しい物でもありますか？」

　俺は平常心を必死で保った。


「いいえ……　そうじゃなくて……　今夜は、私はソファーで寝ようかと……」

　少しハニカミながら彼女が口にした。


　ガーン！



　頭を石で殴れたようなショックだ……

　冗談じゃない。
　俺の口からは、また意地悪な言葉が出だした。


「それなら、僕がソファーで寝ますよ」


「そ、それは申し訳ないわ……」

　慌てて彼女が、両手を横に振る。
　だが、当然ソファーで寝るつもりなんてない。


「なんて、俺が言うと思いますか？　俺のベッドですから、俺に主導権はあります。今夜も主任と寝る事にしてますから……」

　かなり強引な言いぐさなのは分かっている。
　言った自分が驚いているのだから……


「だ、だから、私の言っている意味が通じないの？」

　彼女が、イライラし始めた。
　ショックなのは俺のほうだ……


「全然……」


「あ、あのね……　これでも、一応女なんです。あなたから、見たらおばさんかもしれないけど……　男の人と同じベッドで簡単には寝れないのよ」

　彼女の言葉に、俺はイラっとしたと同時に何かが切れた。
　これだけ、彼女を女として見て来たのに……


「おばさん？　俺が一度でも主任の事をおばさん呼ばわりしましたか？　まさか、女として意識されてないなんて思っている訳じゃないですよね……」

　俺は、冷ややかに言った。


「もう……　私がいくつだと思っているのよ。おばさんよ……　とにかく今夜はソファーで寝かせてもらうわ」


　俺の中で、段々とコントロールが効かなくなっていくのがわかる。


「どうして、そんな必要があるんですか？」


「だから……」

　彼女が、何か言葉を探しているのが分かる。


「だって、主任から俺は本命チョコを貰ってます」


「あのね……　あれは、あなたの冗談でしょ？」


　冗談？　

　そう、彼女にとっては冗談にしかない事ぐらい分かっている。


　だけど、俺は本気だ……