海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
「エレン、それは違う。あらゆる訓練を積んでいる俺にとって、水分摂取を控えることはさして難しいことではない。なにより俺が、エレンに飲ませなければ気が済まなかった。だからこれに、エレンが返さなければと、気に病むのは間違っている」
 目尻に、新たな涙が滲んだ。
「目に見える日焼けの炎症だけじゃない。熱射病や熱中症、これらは一歩間違えば命に関わる。多く水分を取ることが、予防改善に効果的だ。エレンが無事で、よかった。エレンが回復し、こうして元気にいてくれる。それこそが俺にとって一番、価値がある」
 アーサーさんが言葉を重ねる。
 もたらされるそのひとつひとつが、私への慈しみにあふれていた。
「なによりそれももう、四日も前の話だ。俺は今、毎日支給される水に不足を感じていない。だから水は要らない。エレンから受け取るつもりは、さらさらない」
 どうしてアーサーさんは、こんなにも優しいのか。
 それに甘えてしまうことは簡単で、その方が私は楽で……。
 もう一度、拳をギュッと握り込む。そうして決意と共に、アーサーさんを見上げた。
< 114 / 203 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop