というわけで、結婚してください!
 


 暗がりの道で、鈴は自宅を振り返る。

 建て替えたあと、初めて、この家に入ったときのことを思い出していた。

 お城のようだと思った。

 いや、ただ屋敷が洋風な造りに変わっただけだったのだが。

 ウォシュレットの水を頭から被り、トイレの蓋に挟まれたことも。
 今思い出すと、なんだか切なくなってくる。

 屋敷を見上げたまま、鈴は言った。

「今度は自分の足で出て来ちゃいましたから、もう誘拐じゃないですね」

 いや……もしかしたら、最初から違っていたのかも、と鈴は思う。

 父の、
『いや、私には自分の足で歩いてついてったように見えたぞ。
 なあ、尊くん』
という言葉を思い出しながら――。




< 129 / 477 >

この作品をシェア

pagetop