というわけで、結婚してください!
「結婚したのに、キスしかしてない。
 意味がわからない」
と機械のように言ったあとで、

「とりあえず、寝る。
 なんか体力、仕事に全部奪われてるし。

 お前に奪われたいのに。

 いっそ、仕事をやめて、お前と誰も居ない山にでも、こもって陶芸家になろうか」
とぶつぶつ呟きながら、窓のない真ん中の部屋に尊は入っていく。

「詩人になるんじゃなかったんですか?」
とその背に問うと、

「このまま逃亡生活を続けるのなら、詩人になると言ったのは、お前だ。

 俺はこんぺいとう職人……そうだ、釜ひとつ持って、こんぺいとう職人になって、お前と全国を旅するんだった、おやすみ」
と切れ目なく言ったあとで、尊は敷いてあった布団に倒れこんで寝てしまう。

「お、おやすみなさい」

 ゆっくり夢の中で諸国漫遊の旅に出てください、と思いながら、鈴は尊に布団をかけた。






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