恋愛零度。
人混みのなかから、女の子が出てきて、由良くんに声をかけた。
ゆるく巻いた髪、ミニスカートの可愛らしい女の子。
「え……?」
目を疑った。
その女の子はーー渡辺さんだった。
渡辺さんが由良くんに声をかけて、由良くんが顔をあげて笑いかける。
会話までは聞こえないけれど、すごく楽しそうで。
渡辺さん、学校で由良くんと一緒にいるときは、そんな顔してなかったのに、なんでーー。
「ごめん……っ」
三好さんがぱっと顔を背けて、改札のほうへ走りだした。
「あっ、待って……」
思わず、その手を掴んだ。だけど頭がパニックになってて、なにも言葉が出てこなかった。
三好さんが、顔を伏せたままつぶやく。
「本当はわかってたんだ。亜由が、なにか隠してるんじゃないかって。亜由は可愛いしいい子だから、好きになったら、きっと由良くんの気持ちもそっちに向いちゃうだろうなって……」
絞り出すようなその声は、泣いているみたいだった。
「ごめん。もう帰るね」
私の腕を振り払って、三好さんは改札の向こうに走っていった。
カードを持っていない私は、切符を買うのに手間取って、あっという間に三好さんを見失ってしまった。
人混みのなか、もう誰のことも見つけられなかった。