オトナの事情。
ごめんってば、なんて、悪びれもせずに彼は笑う。
「…思ったより、時間かかっちゃってさ。」
『…何が』
「…ルナを取り返す、準備が。」
その言葉と同時に、彼は私の手をグイッと引いて、気付いた時には、その腕の中にスッポリと収まっていた。
ダメ。
『やめて…』
「なんで?」
『いいからやめて、離して!』
厚い胸板を必死に押して、なんとかそこから逃れて。
なんで?なんて。
『やめてよ…』
そんなの、貴方だって分かってるじゃない。
『…これ以上、叶わない夢を見せないで……』
もう、懲りたの。
許されないと知って、落ちた恋だけど。
二度と覚めないとは知らなかった。
でも今はもう、分かってる。
『…これ以上、私を惨めな気持ちにさせないで』
報われない恋なんて、胸が、いたくなるだけでしょう?