オトナの事情。






そしたら彼は、今度は心の底から申し訳なさそうに、ごめん、と言った。






「悪いけど、それは無理なお願いだよ。」





私の顔を上げようとして頬に添えた彼の手は、少し、震えていた。






「ここに来るまで、4年もかかったけど…もう二度と離さないって決めて来たから。」







その震えはきっと、久しぶりに顔を合わせたことへの感動で。

躊躇いや、恐怖ではない。





自信満々にそう言い放つ貴方は、当然私がついて行くと思ってるんでしょう?






でもね。









『…ありがとう、気持ちだけ受け取っておくわ。』










もう、4年も経った。



何もかも、変わった。




私も、変わった。







『私だって、何度も逃げ出そうとした。こんなのおかしいって思った。…早く貴方に会いたかった。
でも、ここを出て行ける理由なんて、無かった。簡単には裏切れないくらい、私は天王寺家に恩があるの。』







変わらず真っ直ぐで素敵なままの貴方の隣に、今の私は、並べない。





オトナになった私にはもう、運命に抗う気持ちはないの。


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