オトナの事情。
『…っ!』
頭が真っ白なまま、控室を飛び出した。
外に出た途端、フラッシュに目がくらんで、一瞬前が見えなくて。
でもかろうじて、奥にパトカーが停まっているのが見えた。
『お義父様…!』
力一杯に叫ぶ私の声に応えるように、
「…殺人、および幽閉の疑いで、あなたを逮捕します。」
警察官の、冷酷な宣告が、その場に響いた。
報道陣を押し退けてパトカーに近づけば、乗り込もうとするその人と目が合う。
『…やっぱり、貴方だったの?』
お父さんとお母さんは本当は天王寺家に殺されたんじゃないかと疑う気持ちはいつもあったけれど、どこかで、まさか、とも思っていた。
なんだかんだと私を大切にしてきてくれたこの人を、信じたい気持ちが、心のどこかにずっとあった。
だから、ここから、この家から、25年も逃げ出せなかった。
『貴方が、お父さんとお母さんを、殺したの…?!』
やっと真実から目を背けられなくなって、でも私はまだ、一言、嘘だ、と言って欲しかった。
「…やっぱりな、ユリナには、白無垢がよく似合う。」
彼はいつも通り、ゆったりと笑って言う。
「だいぶ粘ったが、やっぱり僕の負けだよ、西園寺 百合菜。」
どこまでも負けん気の強い女だ。
最後の言葉は、ドアの閉まる音で掻き消されそうになったけど、私の耳に届くには十分だった。
『…何言ってるのよ。』
図らずも流れた涙は、私が彼を信じてしまっていた証。
『その西園寺 百合菜は、貴方が、殺したんじゃない…』
貴方、ずっと、私の奥に、お母さんを探してたのね。
だからいつも、遠くを見てたのね、なんて。
走り出すパトカーの後ろ姿を見ながら、いやに冷静に、そんなことを思う自分がいた。