オトナの事情。
『はぁぁぁ!良かった~!』
「うわぁっ!」
俺たちの出番が終わると、俺に飛びついてきた。
「え、ちょ、」
『もう!なんなの!なんて良い声なの!あんな声であんな悲しい曲歌われたら、泣いちゃうよ…』
狼狽える俺には御構い無しに、一層強く抱きつかれる。
おいおい、これ、無意識にやってるなら、本格的に魔性の女だぞ?
とりあえずなんとか引き剥がして隣に座らせると、本当に幸せそうに、良かった~なんて言うから、こっちまでありがたさでいっぱいで。
「…でも、悠二は野球派だよ?」
だけど昨日、ユウジのファンだ、なんて言ってたのを思い出したら、なんだか無性に腹が立って、そんな風に言ってしまう。
そしたらルナは、呆れたように笑った。
『あのねえ、ユキ君。好きな人に合わせて好きな物を変える女がいたら、それは、好きな物に合わせて好きな人も変える女だよ。』
あんた、そういうのに引っかかるタイプでしょう?
そう言われて、全く心当たりが無いわけではなかった。
そしてルナは、自分の好きな物を曲げるようなことは、絶対にしない女だというのも、もう十分に分かっていた。