溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~

(これ、片瀬くんの……)

たかだか電話番号。ただの数字の羅列なのに、それが片瀬に繋がるための鍵だと思うと緊張に手が震える。昔のこととはいえ、憧れていた人のナンバーを手に入れた優花の胸は大きく高鳴った。


どことなくふわふわした気持ちでアパートへ帰り着いた優花だったが、郵便受けに入っていた〝お知らせ〟によって無情にも現実に引き戻された。
『四月三十日をもって退去願います』という内容が書かれた文書だったのだ。


「……言われなくてもわかってるのにな」


心の声がつい口をつく。

改めて伝えてくるのは、なにがなんでも四月いっぱいには出て行ってもらおうという、先方の強い意思。優花には引き延ばした前科があるから、強気で出たのだろう。


「本当にどうしよう」


退去案内の文書を見て途方に暮れる。優花は肩で大きく息を吐いた。
いよいよ迫ってきた期日。仕事は見つからない、部屋もなしでは、親の言うように実家へ帰るしか手立てがないではないか。
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