溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~
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敷地面積二千坪。片瀬と倉田を乗せた社用車が、武家屋敷を彷彿とさせるような豪奢な日本家屋の大きな門扉を出ていく。トライリンクにM&Aを持ちかけている、コスモジャパンの社長宅だ。
片瀬の前に突如として現れた社長令嬢の恵麻を送ってきたところだった。このまま一緒に食事でもと恵麻に誘われたが、仕事中だと丁重に断り、半ば強引に自宅へ送り届けたのだ。
「社長も、なかなかやりますね。あの場に恵麻さんを呼んでおくんですから」
助手席に座る倉田は後ろをチラッと振り返り、口の端を片方だけ上げた。
「なんのことだ」
片瀬が不機嫌に返すのは、ほかでもなく優花に妙なところを見られたからだ。
「例の優花さんに諦めを促すためですよね。面倒なことになる前に手を打ったと。自分から身を引くようにお膳立てするとは、さすがです。いかにも驚いたふうを装いつつ、恵麻さんとただならぬ関係のように見せかけるんですから」