溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~

だが、そうしているにも関わらず、優花は片瀬を気遣い、車で食べられるようにと朝食を準備する。ひどいことをしたうえに避けているも同然の片瀬に、いじらしく接してくるのだ。

(優花はいったいどういうつもりなんだ)

自分を傷つけた相手に、どうしてそこまでするのか。片瀬は、優花の気持ちをいまひとつ掴めずにいる。

そんな日が続いたある夜、帰宅したマンションのダイニングに優花の姿があった。なにかのテキストらしきものを広げ、その上に突っ伏すように寝入っていた。

四月も終わりとはいえ、夜はまだ冷える。抱き上げてベッドへ寝かせようと思ったが、毛布を掛けるだけに留めた。
優花に触れるのが怖かった。自分の心に衝動的に溢れるかもしれない〝なにか〟から目を逸らしたかった。

そうしておきながら、瞼を閉じる優花の横顔を見たら触れずにはいられなくなる矛盾。衝動的に柔らかな唇の端にキスをひとつ落とし、急いで離れた。

守谷会計事務所に今後の取引を求めたのは、優花への罪滅ぼしの意味もあった。
そんなことで、あの夜のひどい仕打ちを消せるわけではないが。
守谷に優花を同行させるように求めたのも片瀬だった。
< 83 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop