Crazy for you  ~引きこもり姫と肉食シェフ~
香子は誘うようにミディアムロングの髪を掻き上げながら言った。

「情緒ないなあ、俺も一応、雰囲気とか気にするタイプだぜー?」
「あら、平成の歌姫とまで言われる女に誘われて文句言うの?」

ドアも開いたまま、香子は橘の肩に手を掛けた。

「はいはい、ちょっとくらいは恥じらい持ってね」

橘は香子の腰を抱き寄せて中へ入ると、後ろ手にドアを閉めた。

「いいじゃない、どうせするんだし」
「まあそうだけどさ」
「俺のバックアップが欲しかったら、エッチしよっかって言ったのは社長だし」
「それは否定しませんけど」
「若い女に夢中になっちゃったんだもんね。ああ、そろそろ次の女の子でも用意できて、私は用済み?」
「あのね、俺をなんだと……今でも、香子をちゃんと事務所一押しの歌手としてバックアップもしてるじゃん」
「判ってる。でも最近、他の女漁ってるじゃない」
「それは新人さん発掘って言うの」
「私だってモテない訳じゃないから。わざわざ週一で社長の相手すんの、面倒になって来てんのよね」
「おやまあ、反抗期かねえ。育て親にそんな事言うの? 独立とか考え始めちゃった?」
「私達が稼いだお金で、次のヒットメーカーを荒捜ししてるのは知ってる」
「社会ってのはそんなもんなの。稼いだお金の全部君達に還元してたらうちが儲からないでしょ?」
「そしていつ私達が飽きられてもいいように、次の駒を用意しておく」
「香子だって、やらなくてもいいプロデューサーなんて始めたのは、いつ歌手としてやっていけなくてもいいように、なんじゃないの?」

意地悪く嗤う橘の目から逃れて、香子はソファーに座り直した。

「おや。莉子ちゃんの新曲?」

室内に流れる音楽に気が付いた。
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