Crazy for you ~引きこもり姫と肉食シェフ~
*
放送を尊は自宅のリビングで見ていた。隣に座る拓弥がそわそわしている。
「マジか……! KK辞めるんだ、ショック……ああ、でも、Caccoは辞めないんだもんな、まだ歌は聞けるんだからいっか。あれ、でもCacco with bandの歌は誰が作るようになるんだろう?」
尊だけが知っている、莉子の最大の決断を。
*
「──実はあの発言、かなり助かったんだよね」
横浜に入った頃、運転席の龍一が呟く様に言った。
「え……?」
後部座席の莉子が聞き返す。
「もう作詞作曲はしません発言だよ。実はさ、俺は今、新事務所を立ち上げようと動いててね、香子やHAL(ハル)達とさ。香子は個人事務所のつもりだけど、俺としては香子がプロデュースした奴らも引き連れて独立するつもりでいるんだ。そうなると君の事が気になってた。君はKKとして事務所に所属してる、著作の殆どは橘プロが権利を持ってるからできれば君も連れて独立したいと思ってた。そうしたらCacco with bandは今まで通りその楽曲を歌えるからね」
「でも……KKは香子の事だから、一緒に独立はできるのでは……」
「香子が誰にも言わずにそうしてるならできるけど。よりによって社長が知ってるからな。君とKKは橘プロに置いて行かざる得ないかと思ってた」
「そう……ですか……」
「でも君がKKを辞めると宣言してくれたなら、うちで引き取るよ、これからは花村莉子として活動しようよ」
「──私は、KKと言う肩書きだけを辞めると宣言した訳では……」
作詞作曲と言うものを辞めたかった。元より好きでやっている仕事ではない、それを嬉しそうに歌っている歌手たちを間近で見て、そのエネルギーに触れて罪悪感ばかりが募った。
「君は作らずにはいられない」
龍一は宣言した。
「そんなこと……」
ない。
「今日は疲れたから、ネガティブな方向に向かうんだろう。少し休んで。きちんと事務所が立ちあがったら、また声を掛けさせてもらうよ」
莉子は小さく首を左右に振った、そんな姿を龍一はルームミラーで見ていた。
「──例のイケメンシェフに、なんか言われた?」
莉子は息を呑んで、鏡越しに龍一を見る。
「……なにも……言う訳……」
「そう? 妙な独占欲で君を囲われても困るんだよね、君のような才能の塊を閉じ込めるような真似」
「尊はそんな事言いません!」
今日初めて聞いた力強い声に、龍一は肩を竦める。
「今はまだいい、恋は盲目と言うからな。でも何年かしたらきっと後悔するぞ、歌は歌う事も作る事もある意味筋トレだ。今、作るのを辞めてしまったら、また作りたいと思ってもその感を取り戻すのに時間がかかる。思い通りの曲が描けなくなるぞ」
「私は、もう、作りたくない……!」
「でも今まで作って来た、どれもいい曲だ。香子の歌唱力だけじゃない、君の歌に心があるからだ。その才能を目の前でみすみす逃す気はない」
車は、莉子のマンションに着いた。
「とりあえず。引き受けてくれてる曲は仕上げてくれるんだろう?」
莉子は頷いた。
「それが全部上がった頃に、また改めて聞くよ。それまで、ゆっくり考えて」
一番最後の締め切りは来月末だ、およそ一カ月半ある。
「部屋まで送ろうか?」
ドアを開けた莉子の背中に聞く、莉子は小さく「大丈夫です」と答えて車を降りた。 ふらつく様子を見せたが、龍一は見送るだけだった。
「──さて。お怒りであろう香子さまの元へ向かいますか」
車をゆっくり発進させた。
莉子はエレベーターで8階へ。エレベーターに乗るとどっと疲れが溢れ出してきた。部屋まであと少し、気力を振り絞って歩き出す。
ダブルロックをひとつを開けると、もうひとつは勝手に開いた。なんで、と思っている間にドアは内側から開く.
開けた人物を見て、莉子は泣き崩れた。
「──おかえり」
優しい声が髪にかかる、温かい腕に抱き寄せられて莉子は素直にその腕に埋もれる。
出迎えてくれた尊に、何も聞かなくても判った。全てを知っているのだと。
放送を尊は自宅のリビングで見ていた。隣に座る拓弥がそわそわしている。
「マジか……! KK辞めるんだ、ショック……ああ、でも、Caccoは辞めないんだもんな、まだ歌は聞けるんだからいっか。あれ、でもCacco with bandの歌は誰が作るようになるんだろう?」
尊だけが知っている、莉子の最大の決断を。
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「──実はあの発言、かなり助かったんだよね」
横浜に入った頃、運転席の龍一が呟く様に言った。
「え……?」
後部座席の莉子が聞き返す。
「もう作詞作曲はしません発言だよ。実はさ、俺は今、新事務所を立ち上げようと動いててね、香子やHAL(ハル)達とさ。香子は個人事務所のつもりだけど、俺としては香子がプロデュースした奴らも引き連れて独立するつもりでいるんだ。そうなると君の事が気になってた。君はKKとして事務所に所属してる、著作の殆どは橘プロが権利を持ってるからできれば君も連れて独立したいと思ってた。そうしたらCacco with bandは今まで通りその楽曲を歌えるからね」
「でも……KKは香子の事だから、一緒に独立はできるのでは……」
「香子が誰にも言わずにそうしてるならできるけど。よりによって社長が知ってるからな。君とKKは橘プロに置いて行かざる得ないかと思ってた」
「そう……ですか……」
「でも君がKKを辞めると宣言してくれたなら、うちで引き取るよ、これからは花村莉子として活動しようよ」
「──私は、KKと言う肩書きだけを辞めると宣言した訳では……」
作詞作曲と言うものを辞めたかった。元より好きでやっている仕事ではない、それを嬉しそうに歌っている歌手たちを間近で見て、そのエネルギーに触れて罪悪感ばかりが募った。
「君は作らずにはいられない」
龍一は宣言した。
「そんなこと……」
ない。
「今日は疲れたから、ネガティブな方向に向かうんだろう。少し休んで。きちんと事務所が立ちあがったら、また声を掛けさせてもらうよ」
莉子は小さく首を左右に振った、そんな姿を龍一はルームミラーで見ていた。
「──例のイケメンシェフに、なんか言われた?」
莉子は息を呑んで、鏡越しに龍一を見る。
「……なにも……言う訳……」
「そう? 妙な独占欲で君を囲われても困るんだよね、君のような才能の塊を閉じ込めるような真似」
「尊はそんな事言いません!」
今日初めて聞いた力強い声に、龍一は肩を竦める。
「今はまだいい、恋は盲目と言うからな。でも何年かしたらきっと後悔するぞ、歌は歌う事も作る事もある意味筋トレだ。今、作るのを辞めてしまったら、また作りたいと思ってもその感を取り戻すのに時間がかかる。思い通りの曲が描けなくなるぞ」
「私は、もう、作りたくない……!」
「でも今まで作って来た、どれもいい曲だ。香子の歌唱力だけじゃない、君の歌に心があるからだ。その才能を目の前でみすみす逃す気はない」
車は、莉子のマンションに着いた。
「とりあえず。引き受けてくれてる曲は仕上げてくれるんだろう?」
莉子は頷いた。
「それが全部上がった頃に、また改めて聞くよ。それまで、ゆっくり考えて」
一番最後の締め切りは来月末だ、およそ一カ月半ある。
「部屋まで送ろうか?」
ドアを開けた莉子の背中に聞く、莉子は小さく「大丈夫です」と答えて車を降りた。 ふらつく様子を見せたが、龍一は見送るだけだった。
「──さて。お怒りであろう香子さまの元へ向かいますか」
車をゆっくり発進させた。
莉子はエレベーターで8階へ。エレベーターに乗るとどっと疲れが溢れ出してきた。部屋まであと少し、気力を振り絞って歩き出す。
ダブルロックをひとつを開けると、もうひとつは勝手に開いた。なんで、と思っている間にドアは内側から開く.
開けた人物を見て、莉子は泣き崩れた。
「──おかえり」
優しい声が髪にかかる、温かい腕に抱き寄せられて莉子は素直にその腕に埋もれる。
出迎えてくれた尊に、何も聞かなくても判った。全てを知っているのだと。