Crazy for you ~引きこもり姫と肉食シェフ~
***
『本当に、ごめんなさーい!』
香子がテレビ画面の中で謝っていた。
『ちょっとメンタルやられたみたいでー! もう大丈夫です! いっぱい休ませてもらいました! 明日からのツアー、適度に気合入れて頑張ります!』
『やっぱりいろいろあったせいですか?』
レポーターが意地悪く聞く、せっかく下火になった尊の話を蒸し返そうとしていた。
『うーん、それはないですよお。だって私は困ってないですもん、妹の方が大変だったんじゃないんですかあ?』
だからあんな発言したのだとは、香子だって言えないが。
『KKは辞める、でいいんですか⁉』
『とりあえず、活動自粛しまーす! しばらくクリエイトな活動は控えまーす! 再開はKKなのか、Caccoなのか、それはまだ判りませーん』
それが事務所が取った対応なのだと、莉子は理解した。
その再開は、莉子がするのか、香子がするのか、はたまた全くの第三者がするのかは判らない。電話はもうずっと電源を入れていない、ずっと香子からの電話が鳴り止まないからだ。橘プロからはメール攻撃だ、それらに一切返信はしてない。出来上がった楽曲だけは送っている。あと三曲作れば、受けた仕事は終わる。
「そしたら……尊の店でも手伝おうかな……」
ソファーに乗せた足の指をすり合わせた。
ほっとした半面、本当にいいのかと言う気持ちにもなる。誰にも言わずに、あの場の勢いで発言した。香子のみならず多くの人に迷惑をかけたが、謝罪は橘からの電話で一言謝ったきりだ。随分子供じみた事をしたと反省している。それを多くの大人が尻拭いをしてくれている。
尊に言っても「気にすることはない」で終わりだった。そっけないのは、それまでの莉子の仕事の姿勢や、香子の態度からだろうとは思う。
そして、龍一の言葉が甦る。
『君は作らずにはいられない』
(そんな事、ない……)
嫌々やっていたはずだ、なのにそんな言葉が何度も頭を駆け巡る。
***
尊は今日も、まずは莉子の部屋に帰ってくる。
「ただいまー。お、いい匂い」
室内に肉を煮込んだ香りがしていた。
「あ、おかえりー。あのね、テールスープ、作ったのー」
キッチンから莉子の声がする。キッチンに向かう時、気付いた。いつもの開け放たれている莉子の仕事部屋の中に。
「パソコン、処分したのか」
薄暗く見えるほどの機材で埋まっていた部屋が、そこから見えるだけでも随分広く見えた。 一台のパソコンと電子ピアノだけを残して。
「うん、午前中に業者さんに来てもらって……もう要らないものだから」
莉子はエプロン姿で小さな寸胴の鍋を掻き回していた。
先週、全ての仕事を終えた。橘からお礼とねぎらいの言葉が並んだメールを受け取った。 本当にこれで終わっていいのだと確信できた。
「また綺麗さっぱりやったな。作りたくなったらどうすんの?」
『本当に、ごめんなさーい!』
香子がテレビ画面の中で謝っていた。
『ちょっとメンタルやられたみたいでー! もう大丈夫です! いっぱい休ませてもらいました! 明日からのツアー、適度に気合入れて頑張ります!』
『やっぱりいろいろあったせいですか?』
レポーターが意地悪く聞く、せっかく下火になった尊の話を蒸し返そうとしていた。
『うーん、それはないですよお。だって私は困ってないですもん、妹の方が大変だったんじゃないんですかあ?』
だからあんな発言したのだとは、香子だって言えないが。
『KKは辞める、でいいんですか⁉』
『とりあえず、活動自粛しまーす! しばらくクリエイトな活動は控えまーす! 再開はKKなのか、Caccoなのか、それはまだ判りませーん』
それが事務所が取った対応なのだと、莉子は理解した。
その再開は、莉子がするのか、香子がするのか、はたまた全くの第三者がするのかは判らない。電話はもうずっと電源を入れていない、ずっと香子からの電話が鳴り止まないからだ。橘プロからはメール攻撃だ、それらに一切返信はしてない。出来上がった楽曲だけは送っている。あと三曲作れば、受けた仕事は終わる。
「そしたら……尊の店でも手伝おうかな……」
ソファーに乗せた足の指をすり合わせた。
ほっとした半面、本当にいいのかと言う気持ちにもなる。誰にも言わずに、あの場の勢いで発言した。香子のみならず多くの人に迷惑をかけたが、謝罪は橘からの電話で一言謝ったきりだ。随分子供じみた事をしたと反省している。それを多くの大人が尻拭いをしてくれている。
尊に言っても「気にすることはない」で終わりだった。そっけないのは、それまでの莉子の仕事の姿勢や、香子の態度からだろうとは思う。
そして、龍一の言葉が甦る。
『君は作らずにはいられない』
(そんな事、ない……)
嫌々やっていたはずだ、なのにそんな言葉が何度も頭を駆け巡る。
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尊は今日も、まずは莉子の部屋に帰ってくる。
「ただいまー。お、いい匂い」
室内に肉を煮込んだ香りがしていた。
「あ、おかえりー。あのね、テールスープ、作ったのー」
キッチンから莉子の声がする。キッチンに向かう時、気付いた。いつもの開け放たれている莉子の仕事部屋の中に。
「パソコン、処分したのか」
薄暗く見えるほどの機材で埋まっていた部屋が、そこから見えるだけでも随分広く見えた。 一台のパソコンと電子ピアノだけを残して。
「うん、午前中に業者さんに来てもらって……もう要らないものだから」
莉子はエプロン姿で小さな寸胴の鍋を掻き回していた。
先週、全ての仕事を終えた。橘からお礼とねぎらいの言葉が並んだメールを受け取った。 本当にこれで終わっていいのだと確信できた。
「また綺麗さっぱりやったな。作りたくなったらどうすんの?」