野獣は時に優しく牙を剥く

「高校の奨学金も返さなきゃいけないんでしょ?」

 これには驚いて言葉を詰まらせる。

 何もかもお見通しだ。
 こんな話、誰にもしたことないのに。

「………祖父に負担をかけたくなくて。」

 奨学金を払いながら消費者金融の借金も抱えた。
 谷が助けてくれた当時の自分は体を売ることくらいしか道は残されていなかった。

「あと、このことも知っているんだけど、話してくれないかな?
 どうしてご健在のご両親とは一緒に暮らしていないのか。」

 両…親………。

 水道から流れ出る水はシンクの中へ止めどなく落ちていく。
 ぼんやりした澪は止めることも忘れ、洗い終わった食器を持ったまま。

 見兼ねた谷がレバーを押して無駄に流れ行く水を止めた。

「ぼんやりしてないで片付けはひと段落したし、座って話そうか。」

 澪を促してから谷はリビングの方へ歩いていく。

 谷に話していないことも、彼なら知っていてもおかしくない。
 有能な弁護士と知り合いのようだし、有能な探偵とかいくらでも知り合いがいそうだ。

 だからって……。


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