野獣は時に優しく牙を剥く

 お金に苦労させてきたけど結婚の時くらいお金の心配せずに式くらい挙げさせてやりたい。
 結婚して新しい生活を始める時の足しにして欲しい。

 そんな思いが込められている気がして、今はとても手を付ける気になれなかった。

 確かに整理した借金を一括で返せば利子分は払わなくて済む為、300万円で多少は残る計算になる。

 けれど、結婚……はするつもりないのだから、せめて祖父が喜んでくれることに使いたかった。
 それを借金の返済に充てるなんて……。

「俺としては立て替えて俺へ返してもらう今のままの方が都合がいいんだけどね。」

「え?」

 思わず隣の谷へ視線を向けると思っていたよりも近くにあった顔は少し寂しそうに笑った。

「澪に貸しを作っておいて繋ぎ止めておく為の手段にしようと思っていた。
 でも、そんな姑息な方法じゃ澪の心は手に入らないと思うから。」

 何を言えばいいのか。
 新たにお金を世話してもらおうとすら考えていた自分の甘さ加減を思い知った気がした。

 谷は続けて言った。

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