野獣は時に優しく牙を剥く
「澪?」
伸ばされた手は頬を捕まえて、優しく顔のラインを撫でた。
背すじに走る甘い痺れに思わず息が漏れる。
「君は触れるだけで俺を煽る。」
立ち上がる谷は空いている方の手をテーブルについて、澪との距離を詰めた。
「僕からのキスはOKなんだっけ?」
「どうして、僕……。」
「ん?」
疑問は答えに出会うことなく唇が塞がれた。
触れた唇から電気が走るみたいに痺れて頬へ伸ばされている腕をギュッとつかんだ。
それに呼応するように重ねられた唇は角度を変え、澪の知り得ないキスへと変わっていく。
ゆっくりと離された顔は妖艶に微笑んだ。
「今くらい俺に溺れてる表情を向けていて。
結婚を考えている恋人で一緒に朝を迎える間柄なんだから。
いちいち弟に詮索されるのは面倒だろ?」
また、嘘を……。
ううん。これは前と違って本当になり得るということ?