野獣は時に優しく牙を剥く
潤む瞳は琥珀色の双眼に捕まって逸らせずにいる。
少しだけ困ったように眉尻を下げた谷がもう一度、顔を近づけようと体を動かしたのが分かった。
「フッ。時間切れかな。」
触れてしまいそうな距離で囁かれて唇が震える。
緊張と恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
体を離した谷は食べ終わった食器を片付け始め、解放された澪は金縛りが解けたみたいによろよろと椅子に体を落とした。
そうこうしているうちに虎之介が再び階下に戻ったようだ。
オートロックを解錠した谷から「龍之介って呼ばないとダメだからね」と念押しされた。
リビングへ現れた虎之介は男性にしては線が細くスマートな出で立ちだった。
肌は健康的に焼け、黒髪がよく似合う。
兄弟と言われれば似ている気もするけれど、パッと見た感じはあまり似ていない。
きっとどちらかが父親似でどちらかが母親似なのだろう。
どちらにしても種類の違うイケメンではある。