野獣は時に優しく牙を剥く

「ふーん。そう。」

 谷は顎をさすって、それから澪へとんでもないことをお願いした。

「澪、その印を確かめてきてくれない?」

「え……私、ですか?」

「ふざけるな。なんでそんな女に……。」

 虎之介の訴えは谷の一瞥で黙らせてしまった。
 その視線はひどく冷たくて恐ろしく、有無を言わせない力を感じた。

「澪。萌菜と俺たち兄弟は小さい頃からよく遊ぶ仲だった。」

 谷は穏やかな声で澪へ語りかける。

「どんな印があるのか澪に見てきて欲しい。」

 ずっと虎之介の後ろに隠れていた萌菜が自ら進み出て澪の方へと歩み寄った。

「大丈夫です。
 私も女性に見ていただけた方が……。」

「萌菜……。」

 心配そうな瞳を向ける虎之介へ谷は「澪は人を傷つけるような子じゃないよ」と声をかけた。

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