野獣は時に優しく牙を剥く

「まずいな。
 澪の気持ちを待ちたくて虎之介を呼んだのもあるんだけど。」

 澪の肩に力なく頭を乗せる谷の発言の意味が理解できなくて、思ったままを口にした。

「それは、どういう……。」

「2人でいると澪の全てを俺のものにしたくなるってこと。」

「……ッ。」

 首すじに息が吹きかけられて澪は息を飲んだ。
 生温かい舌が澪の首をペロリと這って思わず目の前の龍之介の体にしがみついた。

「ハハッ。突き飛ばさずにしがみついたらダメだろう?
 それとも僕へ全てをくれる覚悟が出来たってこと?」

 また、僕……。

 澪は堪らず今まで感じていた違和感をこぼした。

「どうしてたまに『僕』って……。」

「……え?」

 無意識のことだったのだと思う反面、無意識だったからこそ本音が映し出されている気がして思いが止まらなかった。

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