野獣は時に優しく牙を剥く

 次の日、出社すると森本から嬉しそうに声をかけられた。

「相川さん、男っ気がないかと思ってたけど、そっか、そっか。良かったわ。」

 え?何が?どうして?

 もしかして、龍之介が何か話したのかとも思ったが、彼はいつも通り澪とも同僚としての距離を保っている。

 森本と話していると原田までやってきて、意味深なことを口にする。

「あれ。相川さん、男でも出来た?」

「な、どうしてそう思うんです?」

 思わず本音を漏らすと口籠る原田が「なんていうか、雰囲気というかオーラがピンク色?」と解せない答えを残して去っていく。

 森本も「女の子って黙ってても出ちゃうのよ。やっぱりオーラかな」と微笑みを残して去っていった。

 自分だけ心の中を覗かれたみたいな気分になって落ち着かない。

 けれどその不可解さも業務の忙しさに紛れて忘れていった。

 平日は龍之介も言った通り、仕事では会えるものの『谷さん』と『相川さん』の関係のまま。
 家政婦として自宅にお邪魔しても会わない日々が続いた。

< 182 / 233 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop