野獣は時に優しく牙を剥く
次の日、出社すると森本から嬉しそうに声をかけられた。
「相川さん、男っ気がないかと思ってたけど、そっか、そっか。良かったわ。」
え?何が?どうして?
もしかして、龍之介が何か話したのかとも思ったが、彼はいつも通り澪とも同僚としての距離を保っている。
森本と話していると原田までやってきて、意味深なことを口にする。
「あれ。相川さん、男でも出来た?」
「な、どうしてそう思うんです?」
思わず本音を漏らすと口籠る原田が「なんていうか、雰囲気というかオーラがピンク色?」と解せない答えを残して去っていく。
森本も「女の子って黙ってても出ちゃうのよ。やっぱりオーラかな」と微笑みを残して去っていった。
自分だけ心の中を覗かれたみたいな気分になって落ち着かない。
けれどその不可解さも業務の忙しさに紛れて忘れていった。
平日は龍之介も言った通り、仕事では会えるものの『谷さん』と『相川さん』の関係のまま。
家政婦として自宅にお邪魔しても会わない日々が続いた。