野獣は時に優しく牙を剥く
獅子之介が帰ると龍之介を呼びに行って帰ったことを告げた。
「なんだよ。じいさんのやつ。
ひどいこと言われなかった?」
心配そうな龍之介に「優しいおじい様でしたよ」と言いたい気持ちをグッと我慢した。
「とても厳格な方で、恐ろしかったですけど、なんとか結婚は承諾してくださいました。」
「本当に?すごいや。澪。
どうやって?」
手放しで喜ぶ龍之介へ「痣のことも何もかもお見通しでした」とも言えずに別の理由を口にする。
「虎之介さんと萌菜さんのことを聞き及んでいたみたいで、萌菜さんが口添えしてくださっていたみたいです。」
「そうか。良かった。」
どうにか納得してくれた龍之介に安堵した。
きっと獅子之介は名前の通りライオンのような人なんだ。
子どもを崖から突き落とすような教育しかできない不器用な人で本当は愛情に溢れた人。
そして龍之介や虎之介にはまだ怖い祖父の存在が経営者として成長する上で必要不可欠なんだろうと思った。