野獣は時に優しく牙を剥く

 帰り道で龍之介は思いもよらなかったことを口にした。

「澪のお父さん、お母さんにも挨拶に行った方がいいんじゃないかな。」

 龍之介が言うには龍之介の家族で怖いのは祖父だけでご両親は龍之介の言葉を借りれば人畜無害な人らしい。
 祖父からOKをもらえさえすれば龍之介の結婚は手放しで喜んでくれる、とのこと。

 忙しい人たちで親らしい愛情をかけてもらった覚えはないけどね。と少しだけ寂しそうに言う龍之介の横顔に胸が痛くなった。

 親らしい愛情をかけてもらえなかったのは澪も同じだった。
 その上、澪の両親は離婚しているし、澪にとってはトラウマでもあった。

「出来ることなら対峙したくありません。
 まだ、父と母に会って上手く笑える自信がなくて。」

「そう。無理にとは言わないよ。
 澪のおじいちゃんはお父さん側のおじいちゃん?それともお母さん側?」

「祖父は父親側の人です。
 だから余計に母は祖父の家に寄り付かなくて。
 父は再婚して別の家庭がありますし。」

「そう。」

 嬉しかった気持ちも一気に影を潜めてしまった。
 母が今、どうしているのか。
 考えたくない自分がいた。

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