野獣は時に優しく牙を剥く
「澪さんの人柄はこの家で育ったからこそだと改めて思いました。
僕の家族は関係が希薄なので、温かい澪さんの家族のような関係に憧れます。」
切ない横顔は演技だと分かっているのに、とても寂しそうに見えた。
「そんなこと言っておらんで、もう龍之介くんも家族同然だ。
いつだって遊びに来たらいい。」
「はい。ありがとうございます。」
祖父は社交辞令は言わない。
この短時間の間に谷をかなり気に入ったようだ。
これも彼の人たらしのなせる技だろう。
祖父自身は本心で言っているのだけど、彼にそれが伝わっているだろうか。
今の笑顔だって演技に決まっているのに、本当に嬉しそうに見える。
家族の愛に飢えているのは本当なのかもしれない。
そう思ってしまう自分も谷に騙されかけているのだと、心の中で警笛が鳴り響いていた。