野獣は時に優しく牙を剥く

「……渡しとこうか。」

 祖父はおもむろに立ち上がってどこかへ行ってしまった。

 谷と顔を見合わせて、どうしたんでしょう……と同意を求めたいのに、彼の顔をまともに見ることが難しい。

 見てしまったら言いたい思いが溢れて、その姿を祖父に見られてしまいそうだ。

 下手したら罵詈雑言を浴びせてしまう。

 視線を漂わせて、結局は下へ視線を落として無言で膝の上で手を握り締めることしか出来なかった。

 そうこうしているうちに、すぐ戻ってきた祖父は嬉々として何かを座卓の上に置いた。

 小さな箱は開けられており、少し昔のデザインだが、大振りのダイヤがついた指輪が入っていた。

「これはワシが昔にばあちゃんへあげたもんじゃ。
 社長さんだから、もっといい物をやりたいだろうが、これを澪に渡すのをばあちゃん楽しみにしてたで、なぁ。」

 シワシワの顔をクシャッとさせて照れたように笑う祖父を見ていられなかった。

 ごめん。おじいちゃん。
 全部、嘘なんだよ。

 言い出せないまま、後ろめたさが募っていく。

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