野獣は時に優しく牙を剥く

 顔が上げられない澪へ谷が声をかけた。

「その代わり、少しの間連れ出しても構わないですか?
 寝る前には帰しますので、俺がみっちり説教してきます。」

 驚いて見上げた顔は不細工だったんだと思う。
 目があった彼は微笑んでいたから。

 祖父も楽しそうに許しを出した。

「そりゃもちろんいいに決まってる。
 みっちりしぼられてこい。」

 双子まで笑っていて、その双子に谷は約束をした。

「夜、寝る前までには帰すから、お姉ちゃんを少しの間、貸してね。」

 素直に頷く嬉しそうな双子が恨めしい。

「でも仲良くね。」

「澪姉、こう見えても泣き虫だから。」

「あんまり泣かせないでね。」

「泣かせちゃダメだよ。」

 交互に話す双子の言葉に目を丸くして、その目の奥が熱くなる。

 谷はとろけるような優しい顔をさせて澪の肩を抱き寄せた。

「大丈夫。俺は泣かせないよ。」

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