野獣は時に優しく牙を剥く

「俺はって言ったろ。
 双子に泣かされたんだ。
 澪は俺を思って泣いたりしてくれないだろ。」

 谷は少し寂しそうに乾いた笑いを吐いた。
 それがあまりにも寂しそうに思えて、谷の方へそっと顔を向き直した。

 目が合うと柔らかい表情で澪を見つめる。

「もっとおじいちゃんに遠慮してるのかと思ってたよ。
 今日のを見て安心した。」

 谷は澪の手に自分の手を重ねて優しく撫でながら話す。
 あたたかくて大きな手に触れられるのは嫌じゃない自分がいた。

「弟達のことも知ってたよ。」

「驚いてたじゃないですか。」

「あんな登場の仕方をするとは思ってなくてね。
 もっと病弱な子をイメージしていたのもあるし。」

 性格的には元気ではある。
 けれど喘息のせいで運動や生活にも制限があって他の子と同じようにとはいかない。

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