愛しいのは君だけ

「ちょっと、聞いてるの?」

「はいはい、聞いてますよ」

「まさか、ヴィンセントはあの男が王に相応しいと思ってたんじゃないでしょうね?!」

シエラに詰め寄られ睨みつけられて思わず後ろに一歩下がる。


「ちょっと待って、シエラ。僕は陛下が王に相応しいとかそんなこと考えたことありませんから。そもそも、実際に会ったことも数えるくらいしかないんですよ?」

「……お母様を裏切って王座から引きずり下ろし、自分は別の女連れてきて王座に着くなんて。あんな男、何でお母様が選んだのか今でも信じられない」

夫が、妻である女王陛下を王座から引きずり下ろした……?

そんなこと、王家の人間でない者が出来るのか。

更には別の女を妻にし、双子の姉妹を産ませ、第一王女であるシエラを差し置いて贅沢な暮らしをしているというのか。

……クラウスという前女王陛下の専属騎士でありシエラの教育係は一体何をしているのか。

王家内でこんなことが起こっていたなんて誰も気に停めなかった。

だから、僕も知らなかった。

だから、王家の血筋でない第二,第三王女が薔薇姫だなんて噂されるようになったんだ。
< 35 / 41 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop