お兄ちゃん系男子は我慢の限界。



「ふーん…それでそんなに思い詰めているわけ」


クイ、と眼鏡を押し上げ言うコイツは、筒井拓真。クラスメイトで、学校では一番一緒にいることが多い親友だ。


「相変わらず青いな、千葉」


やれやれと首を振り本を開く筒井。ちなみに本の表紙には“確率統計学――物理の世界”とある。


「おいテメーこの理系オタク。青いってどういうことだよ」

「そのままの意味だが?」

「俺のどこが青いだと!?」

「青いだろうが。好きな女子の部屋にノコノコ行った上我慢できずに逃げ帰ってきただと?ガキだな」

「テメッ…!」


つーかお前も勉強ばっかりで彼女もいなくせに偉そうに!


怒りで拳を震わせる俺をよそに、筒井は平静に本のページを捲りながら続ける。



「大体、“夏海が高校生になったら告る!”と豪語していたのはどこのどいつだ。もう本田夏海が入学してから半年以上過ぎているぞ」

「そ、それは…そんな簡単にはいかねーんだよっ!」


椅子に座りふんぞり返って腕組をした俺を、ななめ前の席から筒井が振り向いてニヤリと笑った。


「“お兄ちゃん”だから、か?」

「………」

「いつまでくだらない兄妹ごっこなど続けている?さっさと告るなり押し倒すなり…」

「おいっちょー待て!!」



押し倒すとかそんな大真面目な顔して言ってんじゃねーよ!!




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