スイート ジャッジメント【番外編、別視点公開しました】

「……わかったよ。……ただ……」

「ただ?」

「……いや、いいよ。行こう。俺も一緒に行く」

 渋々と言った様子で、桜庭くんは1-Bの教室へと足を向ける。

 2箇所ある入口はどちらも閉じられていて、前に人だかりが出来ていた。ドアにはめ込まれたガラス窓から中を覗いた生徒達が口々に「ほんとだ」「あれマジだったんだ」と言っているのが聞こえる。

「遠野先輩。館山です。瀬川先輩来ました」

 開けてくださーい、と大きな声で言う館山くんに、苛立った視線を桜庭くんが向ける。桜庭くんは、なんでこんなにイライラしている様子なんだろう。普段の桜庭くんは、どちらかと言うとのんびりしていて、緩いのに。

「あの動画マジだったみたい」

「ヤバくない? 動画の子。顔バッチリ写ってたじゃん」

「彼氏取られたって書いてあったけど」

「友達の彼氏と二股ってさ……」

 背後の人だかりから色々聞こえる言葉の不穏さに、何かがあった事だけは確信できた。

 カシャンと内鍵が外れる音がして、遠野先輩が少しだけドアを開けて、私達を中に入れてくれた。

「瀬川さん、おはよう。その、動画は見た?」

「おはようございます。あの、動画って……」

「まだ見せてません」

 遠野先輩の問いに対して、私が聞き返そうとしたのに被せて桜庭くんが有無を言わさぬ口調で答えた。そんな桜庭くんに、遠野先輩もムッとしたように眉根を寄せた。

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