クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
ロウの手にしているランタンのかすかな灯りがベアトリクス手元を照らす。アンナはその手に布のようなものが握られているのをちらりと見た。

(あの布は……っ!? いけない!!)

アンナはベアトリクスがソフィアにしようとしていることを瞬時に悟った。

(あの布にきっと睡眠薬が染みこませてあるんだわ!)

「ソフィア様! 逃げてくださいっ!」

咄嗟にアンナが叫ぶと、後ろからグイッと腕を引っ張られる。これ以上、余計なことを言うなと言わんばかりの目つきでロウに睨まれ、アンナはごくりと喉を鳴らした。

「おい、娘、こっちへ来るんだ」

「いやっ、離して!」

身を捩る間もなく両手を後ろで縛り上げられ、そのまま狭いほろ馬車の荷台へ無理やり押し込まれる。アンナはそのはずみで転び、思い切り肩を打ちつけた。

「ソフィア様!」

それでも必死に身体を起こし、アンナは後ろ手に縛られながらも荷台から身を乗り出そうとした。しかし。

「おとなしくしろ!」

「きゃ!」

先ほど見張りをしていた兵士がすでに荷台の中で待ち構えていて、その太い腕にアンナは再び身体を引き込まれてしまった。

「ソフィア様! ソフィ……うぐっ」

突如、口元を後ろから布で覆われると、一気に思考回路が停止する。自分も同じように眠り薬を嗅がされたのだと気づいた時には、なにもかも手遅れでジークの姿を思い浮かべながらアンナは意識を手放した――。
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