クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
(駄目とは思いつつも……)

アンナは今、高さ二十メートルほどある大きなクスの木の下にいた。

あれだけ自分に言い聞かせたつもりだったが、結局のところ誘惑には勝てなかった。見上げると、二階の窓からなにやら声が聞こえるが鮮明ではない。いくつもの大きく分かれた枝に足をかければすぐにでも登れそうだ。

(あの辺まで登れば話が聞こえそうだわ)

膝下丈のスカートの裾に気を付けながら腕を捲り、アンナは木に手をかけた。

(ああ。ごめんなさいマーヤさん)

心の中で何度もそう呟いて、誰もいないことを確認するとアンナは幼少の頃、屋敷の木に登って遊んだ感覚を思い出しながらひょいひょいと登っていった。

(意外と簡単に登れたわね)

六メートル程登ると、ウィルが言っていたようにちょうど吹き抜けの窓と同じ高さまで来た。
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