クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
足元でパキッと乾いた音を立てて枝に亀裂が入り、それと同時に講師がこちらへ顔を向けた。アンナは咄嗟に太い枝の陰に身を潜めると、気のせいかと講師は再び話を続けだした。

(ここに長居して見つかったら大変だわ)

なんとか見つからなかったことにホッとして、アンナは誰かに怒られる前に下に降りることにした。

(ああ、でも、憧れのサルベール講堂の中を見ることができたなんて!)

おそらく学士たちは自分よりももっと高度な知識を持って勉強している。アンナは劣等感を覚えるどころか、やる気を煽られ気分が高揚していた。
するすると木から降り、あと少しで地面に足が着くというところで――。

ワン!

「え? きゃあ!」

突然聞こえた大きなその鳴き声に驚いて、アンナはそのままドスッと地面に尻もちをついた。

「いったぁ……っ!? な、なに! わっ」

ベロベロと生暖かいものに頬を舐められて、見ると真っ白なふさふさした大型犬がハッハと息づきながら尻尾を振ってアンナをじっと見つめていた。

「覗きだなんて、悪趣味なやつだな」

背後から低い声がして、アンナは打った尻をさすりながら立ち上がった。
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