諸々ファンタジー5作品

古巣

帰る



烏は山の古巣に、時代を経て還り……災いを繰り返す。

古巣に御守七つ。烏は可愛い我が子を思い、可哀相だと泣く。

山の古巣に、仇の眼をした子烏が、七つ。

恨みをもって、災いのために古巣に還って来たのなら……何故……君は、俺に『憎んで、恨んで欲しい』と願うの?

この愛情は、独り善がりだったのかな…………



雰囲気が変わってしまった教室に、馴染んだわけじゃない。

ただ、理解できるから身を置ける。授業も同じ。

今までいなかった烏。災いは、俺に降り懸かる。すべてを喪う……

皆は、俺の命が絶たれることをイメージするのだろうか?俺の中にも、それはある。

……けれど、烏立は言った。『すべてを奪いたいわけじゃない』と。

……あ、前に感じた。引っ掛かること。

烏立は、すべてじゃないにしても“何か”を奪いたいんだ。それは、一体。

俺の持っているもの。名ばかりの本家?俺から奪う……そんな事が可能だとしても、奪った後、どうするんだ?

違う何か……思いつく物がない。

放課後、烏立は俺と、何を話したいのだろう?

心が落ち着かない……



放課後、教室は5分もしないうちに閑散とする。

俺が席から立つと、烏立の方もイスを引く音がした。

授業中、君は何を考え、何を見たのだろう?

前の方の席の俺には、見えない後ろが気になった。ずっと、心を占める。

視線を向けた俺に、心許した初めての笑顔……

「お願いしたい事があるの。」

彼女は、右手を差し出した。

思わず、握手するように右手を出して握る。それに対して、烏立は苦笑。

「違うわ。握手じゃなく、手をつないで。学校を案内して欲しいの。……駄目かな?」

これは、放課後デートだよね?ドキドキに、胸を込み上げる歓喜。

手をつなぎ直して、顔がゆるんでしまう。

「まずは、下から?上から?グルグル回ろうよ。」

俺は単純に喜んで、足早になる。

「白鷺、ゆっくり歩こう?きっと、まだ残っている人もいるかもしれないから。」

烏立は、視線を逸らす。

気まずい。小さな田舎。きっと噂は、あっと言う間に広まる。

「もう少し、教室で話をする?ここなら、邪魔は入らない。」

邪魔……その言葉で、朝の愛鷹たちの様子を思い出した。

顔が熱い。不自然に赤くなっていないだろうか。

視線を烏立に向けると、烏立は首を傾げ微笑む。

黒紫色の髪が揺れ、同色の瞳が俺を見つめる。

「教室の後ろ、窓際に行こう。風が入ると涼しいよ。」

焦って、烏立の手を引いて移動した。

窓は、開いたまま。風は緩やかに入ってくる程度だけど、十分に涼めた。

鷲実が言ったように、黒い制服。色もそうだけど、長袖って暑くないんだろうか?

俺の視線に気づいたのか、烏立は話し始める。

「この制服が、烏を連想させるのは偶然じゃないわ。西嶌家の経営していた私立の学校の制服なの。白鷺、何故……西嶌家の女が古巣に戻るのか。私は、ここに還るしかなかった。私が最後だから……」

経営して“いた”。それは過去形。

「……私立の学校は?」

言葉が詰まる。

烏立は、泣きそうなのを我慢しながら無理した笑顔。

「西嶌家も衰退して、すべてを喪ったのは私。古巣に連れ戻され、災いだと告げられた。聞いただけの過去の出来事が、恐ろしく鮮明になった夢を見たわ。そして……出逢ったのは、その末裔……」


『還るしかなかった』


烏立に災いだと告げ、連れ戻した人がいる?

「これは、仕組まれたものなのか?目的は……烏立……俺は、何を信じればいい?」

二人で言葉を探すが、見つからない。答えも、不確かに……

「白鷺、あなたは私を手に入れる?それは、私の悲しみになる?惹かれるのは、末裔だからなのか……知りたいの。」

それで、この放課後デート。

「烏立、俺も惹かれる。災いを知る前から。……それが、何故なのか知りたい。行こう?もう、誰も残っていないと思うし。学校を回りながら、色々な話をしよう。」

残っている人がいても、噂が流れたとしても、何も変わらない。今、変化しているのは周り。

大事なのは、俺達の気持ちだけ……

手をつなぎ、並んで歩きながら、どうでも良いような話をした。

不思議と、校内に人はいない。俺達だけの時間を与えるように。

これが、仕組まれたものでも。二人で過ごす、この時間だけはウソじゃない。

俺を知って欲しい。烏立を知りたい。もっと、さらけ出して……もっと見せて。本当の事。

すべてを喪っても……手に入れて、後悔などしない……そんな想いを頂戴。

君はココに帰ってきた。

俺達は片鱗。

君が俺に惹かれた理由が、受け継いだ血によるのだとしても……俺が、そうだとしても……この想いは、本物だと信じたい。

俺は烏立が好きだ。それでも、まだ……すべてを喪う覚悟は…………烏立……

「白鷺、楽しいね。」

「あぁ。」

君は、俺の気持ちを受け入れてくれるだろうか。

俺が君を手に入れたら……すべてを喪っても、君だけが残るなら。

君も喪うなら……手に入れない方が良いのだろうか?

「私は、ここに帰ったんだね。同じ血筋の末裔。あなたの近くに帰ってきた。私は帰る……何度でも。」

「……お帰り」

腕に、伝わる温もりが愛おしく…………




< 55 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop