諸々ファンタジー5作品
オトナな恋愛を目の当たりにした





 暗闇をさ迷い、自分の呼吸が耳に入るほど静かなのに、思考は不安定になる。

これが夢だという自覚があるのに、それでも現実のように神経は擦り減っていく。



 出口を探して、遠くに見つけた一筋の光。

それに向かって走っていると、夢の中なのに、だんだん足が重くなって動けない状態に陥ってしまった。

息が詰まって苦しい。

これは夢だと、自分に暗示を掛けるように唱えてみる。

不思議な事に、体の重みは軽減され、動かなかった足は歩を進めた。

多分、これって……軽くなった気がすると言うより、自分に掛かっている布団の重みなのかもしれない。

寝ている状態で、身動きが取れずにもがいているのだろうか。

自分の寝相を想像すると、笑える。



 目を真っ直ぐに向け、差し込んだ光の下へと歩いていく事にした。

疲れる事も無く、遠いと感じた目的地に呆気なく辿り着いてしまう。

これは夢なんだよね。

実際、前世なのか自分の憶測なのか……判断などつかないかもしれない。

今の自分の子供の頃の記憶でさえ曖昧なのに、生まれ変わって受け継いだ魂に刻まれた何か。

それは思考として、脳に留まるのかな?

それとも中心……心臓……痛む胸元にある心だろうか。



 一筋の光が頭上から降り注ぎ、足元に小さな弱い円形を描いた。

光が照らすのは、血塗られた短刀……

ゾクリと、背筋を通る寒気。

記憶にある。

手に取れば何かを思い出すだろう。

そんな予感が恐怖へと突き落す。

これは誰の血なの?



『あなたさえ、いなければ……』


思い出した言葉。

それに記憶が反応したのか、許しを請い求めていた彼女の姿が暗闇に、ぼんやりとした映像として現れる。

前世の智士君の……代がイチシと呼んでいるのと同一の人だろうか。

じっと見つめるけれど、何かが違うような気がした。

すると映像は薄れて消えていく。



『子を宿せ。』


今、何故……その言葉が出るかな!

思わず、オトナな関係を想像してしまった。



 一瞬に辺りの闇を覆すような閃光。

降り注ぐ光の量が増えたとかの問題ではない。

夢なのに、眩しさに目を開けていることが出来ず、両腕で顔を覆って目を閉じた。

足に違和感がして、そっと目を開けると光は景色を栄えさせ……一面の雪景色。



 息を吐いてみるけど、記憶にある様な白さを見せる事はなく、自分の姿は……

下着姿だった。

あぁ、そうか……寝たままの状態なんだね。

これ、夢なのに精神的にキツイわ。

就寝着で雪景色もどうかと思うけど……

寒い訳じゃないしなぁ。

制服でいいかな、想像すれば身に着けた状態になるよね。



 夢なのに、目を閉じて自己暗示。

足には靴で、何とか制服姿……オチで後ろは布が無いとか……ないよね?

思わず後ろを確認して、きちんと再現できている事に安堵した。

雪は音も無く降ってきて、夢の中にいる私の服や頭に積もっていく。

寒さも冷たさも感じないのに。



 白い景色に、薄らと浮かんだ神殿造りの建物。

代と一緒にいた所なのかな。

こんな静けさ。

戦の気配など全くしないような……ある意味、隔離を連想させる。

敵だった彼に囚われていたのかな……



『子を宿せ。』


彼の声が聞こえたような気がしたかと思えば、景色の変化に目を閉じるのを忘れて茫然とする。

建物をすり抜け、目に入ったのは…………



裸の女性に被さる傷だらけの男の人。



ぎゃぁあああ!

な、な、なあ?



視線を逸らすことも出来ず、思わずガン見。

目が回る。

処理が追い付かず、ショート寸前の思考回路。

こ、これは……見てはいけないオトナの世界ではありませんか!

これが前世?

これ、私なの?

相手は……



「子を宿せ。」


って、やっぱり相多君ですか?

嘘だ、こんな……

絶対に私の妄想じゃないよ、こんなの考えたこともありません!

夢なのに力が入らず、その場に座り込んでしまった。

ここから出ないと、見つかれば途轍もなく恥ずかしい!

多分、二人には私が見えていないんだ。

だからって、続けられると困ります!



 男性の顔が女性の首元で止まり、手は白い肌を撫でながら移動している。

向かう先は……胸……ですけど?

やめましょうよ、敵なんだよね?



「サチ、泣いているのか?」


思ったより優しい声で語りかけ、彼の手は止まった。

抵抗しなかったんじゃなくて、怖くて出来ないような襲われ状態……だったとか。

ショックなんですけど……

そりゃ泣くわよ。

今の私も泣きそう。

いや、何の涙か溢れて来ちゃったぞ。

もう、あの短刀で刺しても文句は言えないと思うわ。

防衛よ。



 自分が震え、怒りが込み上げる状況で目にしたのは彼の優しさだった。

傍の床に広がった衣類を手繰り寄せ、彼女を覆ってあげる。

被さっていた身を起こし、衣類で包んだ彼女を膝に乗せてあやす様に見下ろした。

彼女を見つめる視線に既視感。



「ふ。どうして、敵の俺を救った?」


「……あなたは私が殺すの。」



『私が殺す』……



 景色が徐々に霞んでいく。

私は記憶に過った言葉を確かめようと、必死で目を凝らした。

けれど光に包まれ、目に入ったのは自分の部屋の天井。

光は朝日だと理解し、目覚ましが鳴り始めた。

身を起こして目に入る自分の下着姿に、ため息。



前世を見ようとした結果、私は予想外のオトナな恋愛を目の当たりにした…………





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