諸々ファンタジー5作品
寒雲
前世の記憶へと誘われて眠る
身支度を済ませ、台所へと向かう。
母が私に気付き、心配そうな表情で近づいて来た。
「大丈夫なの?夜中に一度、薬と食べられそうな物を持って行ったのよ。その時には、熱も無くて起こすのを止めたんだけど……」
そっと私の額に手を乗せて、自分の額の熱と比較して目を閉じて首を傾げる姿。
「ふふ。大丈夫、学校に行くわ。」
目を開けた母は、どうしようと焦ったように視線を逸らして、私から離れながら冷蔵庫に小走り。
机の上には、いつものお弁当が無い。
「お母さん。今日は、友達と購買に行って買うわ。……いつも、美味しいお弁当をありがとう。」
素直にお礼を言うには、とても照れくさいけれど、言わないと伝わらない事もある。
母の笑顔。
言って良かった。
「気を付けていくのよ。」
「はい。行ってきます。」
これが私の日常。私の生きている世界……
大切な人たちがいる。
前世にはいない。
きっと、時代や背景も異なり知識や価値基準も同じではない。
生まれ変わって、もう一度やり直せたとしても同じ生き方は出来ないし……
望んだ未来も手に入らない。
それが……
『人の性』
うん、代の言っていた事が分かる様な気がする。
『どれほどの知識を詰め込んでも、相応しい行動など選べもしなければ、まして実践など不可能。それでも足掻いて生きる道を選べるのは特異な事。』
それでも、代は前世を繰り返すことを避けるために動いている。
前世……
学校への道を歩く速度が上がり、顔が熱い。
夢に見たオトナな恋愛……
どうしよう、頭から離れない!
今、私は……どんな顔をしているのかな?
誰かに見られたら。
「お、幸じゃん……どうした?その顔、可愛い程に真っ赤だぞ。」
近づいて来る智士君に、思わず後退る足。
それを見た智士君は足を止め、頬を染めて視線を逸らした。
「やべ、ちょっと……ときめいちゃった。」
口に手を当て、視線を横目に私へと向ける。
そんな智士君にドキッとするのは、何故だろうか。
「ふぅ~ん、二人の仲が良いのは知っていたけど。嫉妬しちゃうなぁ。」
こ・の・声・は!
智士君の後ろから、不機嫌そうな顔で現れたのは、夢で女性に××な事をしていた相多君。
「……ぁ、う。うわぁ~近寄らないでよ、H!」
私は二人の間を縫うように走って学校へと向かった。
顔が赤い?
言われなくても、今までに感じたことがないような熱を発しているのが分かる。
どんな表情をしていたのだろうか。
恥ずかしい。
走っている間に、何とか平静を取り戻す。
正門を通って足を止め、息を整えた。
その息苦しさで、自分の居るのが現世だという実感。
息を深く吐いて身を起こし、目を真っ直ぐに向けて歩を進める。
自分に刻まれた前世の記憶を辿って、見つけたのは血の付いた短刀。
印象の強い言葉に、別の記憶へと引き寄せられたみたいだけれど……
ごほん。
いつもの罪悪感を思い出せ、冷静に分析するんだ。
私は、誰かの命を奪ったのだろうか。
戦乱の世……当然なのかな。
今、誰かの命を奪うことなど想像も出来ない。
この手ではないけれど、前世……
『私が殺す』
チクリとした痛みに、手を頭に移動させる。
足を止めたのは、教室に近い廊下。
窓際に移動して、外を見ながら痛みのある部分を押さえた。
こめかみが脈打つように感じる。
前世の記憶、魂に刻まれた何かが、思考や感情を蝕んでいく。
「幸?……頭が痛いの?」
耳に入った代の声に、体の方向を変えて視線を向けた。
代はいつもの様に抱き寄せ、私は優しい香りに包まれて、痛みが和らぐのを感じる。
「代、お願い。途切れ途切れの記憶が苦しいの。全てを受け止めるから、教えて……」
目を閉じ、この腕の中に安堵を覚えて決意を強める。
彼女への信頼……
「幸。何を思い出したの?」
自分の見たのが、すべて前世の記憶なのかも曖昧。
何を思い出したのか……
はっきりと分かるのは何だろうか。
「雪の世界に、隔離されたような神殿……そこに敵の相多君と、前世の私がいた。相多君は沢山の傷を負い、一番目立ったのは横腹に当てられた布が血に染まって……深い傷だったみたい。」
戦乱の世で、私たちは……
『きっと……この想いは、もっと他の感情。ちがう。好きになっていたなんて認めない。』
そう、想いは届かずに。
「私は彼を選ばなかったんじゃない。想いに気付いた時には、彼を喪ってしまったの。……私は短刀で傷つけた……誰の命を奪ったの?」
代の抱き寄せる力が強まり、頭を優しく撫でる手。
「貴方は約束を守って私の願いに応えただけよ。……幸、目を閉じて。ゆっくり息を吸って……吐いて。何が聞こえる?意識を集中して……深くて暗い闇が見える?それは深層心理。貴方の名はサチ……戦乱の世に生れ、未来を予見する巫女。兄のシロと共に住み、敵のジキと出逢う…………」
私は前世の記憶へと誘われて眠る。
身支度を済ませ、台所へと向かう。
母が私に気付き、心配そうな表情で近づいて来た。
「大丈夫なの?夜中に一度、薬と食べられそうな物を持って行ったのよ。その時には、熱も無くて起こすのを止めたんだけど……」
そっと私の額に手を乗せて、自分の額の熱と比較して目を閉じて首を傾げる姿。
「ふふ。大丈夫、学校に行くわ。」
目を開けた母は、どうしようと焦ったように視線を逸らして、私から離れながら冷蔵庫に小走り。
机の上には、いつものお弁当が無い。
「お母さん。今日は、友達と購買に行って買うわ。……いつも、美味しいお弁当をありがとう。」
素直にお礼を言うには、とても照れくさいけれど、言わないと伝わらない事もある。
母の笑顔。
言って良かった。
「気を付けていくのよ。」
「はい。行ってきます。」
これが私の日常。私の生きている世界……
大切な人たちがいる。
前世にはいない。
きっと、時代や背景も異なり知識や価値基準も同じではない。
生まれ変わって、もう一度やり直せたとしても同じ生き方は出来ないし……
望んだ未来も手に入らない。
それが……
『人の性』
うん、代の言っていた事が分かる様な気がする。
『どれほどの知識を詰め込んでも、相応しい行動など選べもしなければ、まして実践など不可能。それでも足掻いて生きる道を選べるのは特異な事。』
それでも、代は前世を繰り返すことを避けるために動いている。
前世……
学校への道を歩く速度が上がり、顔が熱い。
夢に見たオトナな恋愛……
どうしよう、頭から離れない!
今、私は……どんな顔をしているのかな?
誰かに見られたら。
「お、幸じゃん……どうした?その顔、可愛い程に真っ赤だぞ。」
近づいて来る智士君に、思わず後退る足。
それを見た智士君は足を止め、頬を染めて視線を逸らした。
「やべ、ちょっと……ときめいちゃった。」
口に手を当て、視線を横目に私へと向ける。
そんな智士君にドキッとするのは、何故だろうか。
「ふぅ~ん、二人の仲が良いのは知っていたけど。嫉妬しちゃうなぁ。」
こ・の・声・は!
智士君の後ろから、不機嫌そうな顔で現れたのは、夢で女性に××な事をしていた相多君。
「……ぁ、う。うわぁ~近寄らないでよ、H!」
私は二人の間を縫うように走って学校へと向かった。
顔が赤い?
言われなくても、今までに感じたことがないような熱を発しているのが分かる。
どんな表情をしていたのだろうか。
恥ずかしい。
走っている間に、何とか平静を取り戻す。
正門を通って足を止め、息を整えた。
その息苦しさで、自分の居るのが現世だという実感。
息を深く吐いて身を起こし、目を真っ直ぐに向けて歩を進める。
自分に刻まれた前世の記憶を辿って、見つけたのは血の付いた短刀。
印象の強い言葉に、別の記憶へと引き寄せられたみたいだけれど……
ごほん。
いつもの罪悪感を思い出せ、冷静に分析するんだ。
私は、誰かの命を奪ったのだろうか。
戦乱の世……当然なのかな。
今、誰かの命を奪うことなど想像も出来ない。
この手ではないけれど、前世……
『私が殺す』
チクリとした痛みに、手を頭に移動させる。
足を止めたのは、教室に近い廊下。
窓際に移動して、外を見ながら痛みのある部分を押さえた。
こめかみが脈打つように感じる。
前世の記憶、魂に刻まれた何かが、思考や感情を蝕んでいく。
「幸?……頭が痛いの?」
耳に入った代の声に、体の方向を変えて視線を向けた。
代はいつもの様に抱き寄せ、私は優しい香りに包まれて、痛みが和らぐのを感じる。
「代、お願い。途切れ途切れの記憶が苦しいの。全てを受け止めるから、教えて……」
目を閉じ、この腕の中に安堵を覚えて決意を強める。
彼女への信頼……
「幸。何を思い出したの?」
自分の見たのが、すべて前世の記憶なのかも曖昧。
何を思い出したのか……
はっきりと分かるのは何だろうか。
「雪の世界に、隔離されたような神殿……そこに敵の相多君と、前世の私がいた。相多君は沢山の傷を負い、一番目立ったのは横腹に当てられた布が血に染まって……深い傷だったみたい。」
戦乱の世で、私たちは……
『きっと……この想いは、もっと他の感情。ちがう。好きになっていたなんて認めない。』
そう、想いは届かずに。
「私は彼を選ばなかったんじゃない。想いに気付いた時には、彼を喪ってしまったの。……私は短刀で傷つけた……誰の命を奪ったの?」
代の抱き寄せる力が強まり、頭を優しく撫でる手。
「貴方は約束を守って私の願いに応えただけよ。……幸、目を閉じて。ゆっくり息を吸って……吐いて。何が聞こえる?意識を集中して……深くて暗い闇が見える?それは深層心理。貴方の名はサチ……戦乱の世に生れ、未来を予見する巫女。兄のシロと共に住み、敵のジキと出逢う…………」
私は前世の記憶へと誘われて眠る。