セカンド レディー
「ここ」
部屋の前に着くと、ドアを開ける。
「なぁ、鍵は?」
普通、帰宅したら鍵を開けてドアを開ける。だけど、文字通り鍵は開けていない。
それを不思議に思ったのか、眉間に皺を寄せて聞いてくる。
顔整ってるし、そこら辺の男より断然かっこいいと思う。だけどさ、そんな怖い顔したらせっかくのイケメンが台無しだよ?
「鍵ね壊れてるからいつもかけてないよ。別に困らないし直してないの」
こんなボロアパートに空き巣なんて来ないし。来ても盗まれて困るようなものは置いていない。貴重品は常に持ち歩いているし。
唯一気になるのが、もしもあたしがアパートにいる時に空き巣が来たら嫌だなってことぐらい。
「そこ、床腐ってるから」
「洗面所床抜けてるから入らないで」
あたしが何か言う度に、目を細める彼。 それが気に入らなかったのか、玄関にいた時と同じように眉間に皺を寄せてあたしを睨みつける。
「なに?」
最初は気にしないようにしていたけれど、さすがに限界。荷物をまとめる手を止めて、彼に視線を移す。
「大家はどこにいる?」
低い声。
この声にもそろそろ聞きなれた。
「いないよ」
そう、一言返すと最後の1着を鞄に詰めた。
「あたしがここに来た時、取り壊しが既に決まってたの。夜は基本、泊まらせてくれる相手を見つけてそこに泊まる。だから電気も水道もガスも契約してない。物置としてタダで使わせてもらってるの」