「夕暮れのノスタルジー」〜涙の落ちる速度は〜
……幼かった小学生の頃が過ぎて思春期に差しかかると、ミキちゃんとはあまり話さないようにもなった。
だけど一度、中学の帰りに彼女と鉢合わせたことがあった。
「あっ…こう君、久しぶり。今帰り?」
「うん、ミキちゃんも今から?」
「そう、ちょうど部活が終わって。久々に一緒に帰ろうか?」
「そうだね…帰ろうか」
互いに乗っていた自転車を押しながら、並んで日暮れの道を歩いた。
「そういえば、昔やっぱりこんな時間にふたりで帰らなかった?」
「ああ…小学生の頃だね。赤トンボが飛んでて……」
「そう、赤トンボ…飛んでたよね?」
あの頃と変わらない笑顔が向けられて、刹那にドキリとする。
赤くなる顔を隠そうと空を振り仰ぐと、一匹の秋あかねが飛んでいた。
「……あっ、赤トンボ!」
気づいた彼女が指を差して、
「ねぇ、追いかけてみようか?」
自転車に跨ると、勢いよく漕ぎ出して行ったーー。