「夕暮れのノスタルジー」〜涙の落ちる速度は〜

……幼かった小学生の頃が過ぎて思春期に差しかかると、ミキちゃんとはあまり話さないようにもなった。

だけど一度、中学の帰りに彼女と鉢合わせたことがあった。

「あっ…こう君、久しぶり。今帰り?」

「うん、ミキちゃんも今から?」

「そう、ちょうど部活が終わって。久々に一緒に帰ろうか?」

「そうだね…帰ろうか」

互いに乗っていた自転車を押しながら、並んで日暮れの道を歩いた。

「そういえば、昔やっぱりこんな時間にふたりで帰らなかった?」

「ああ…小学生の頃だね。赤トンボが飛んでて……」

「そう、赤トンボ…飛んでたよね?」

あの頃と変わらない笑顔が向けられて、刹那にドキリとする。

赤くなる顔を隠そうと空を振り仰ぐと、一匹の秋あかねが飛んでいた。

「……あっ、赤トンボ!」

気づいた彼女が指を差して、

「ねぇ、追いかけてみようか?」

自転車に跨ると、勢いよく漕ぎ出して行ったーー。

< 2 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop