元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
 
 
寒々しい、鉛色の空。

花を落とした木々の間に身を潜め、彼女はさめざめと泣いていた。

「……帰りたい。バイエルンに……お母様や妹達のいるお城に帰りたい……」

陶器のように白い頬に、幾筋も涙が走る。

遠くからは彼女を探す侍女や女官らの声が聞こえ、まだ少女らしい華奢さの残る彼女の身体を緊張でいっそう強張らせた。

隠れたといってもここは王宮の庭園。どうせすぐに見つかってしまうだろう。

まるで自分は捕らえられた鳥だと彼女は思う。

逃げ出したところでここはガラス張りの温室。空に向かって羽ばたくことはできない。すぐに侍女達につかまって、目の前の古めかしい巨大な鳥かごに入れられてしまうのだ。――つがいを宛がわれ、卵を産ませられるために。

「いや……! あんな人の妻になんか、絶対になりたくない……!」

グスグスと泣き濡れる顔は、輝かんばかりの美しさに溢れている。ぱっちりとした大きな目に豊かな睫毛、血色のいい上品な唇。今はまだあどけなさが残るけれど、あと数年もすれば大輪の薔薇のように華やかな美貌を誇る美女になるだろう。

けれど彼女は思う。どんなに美しくとも大人になる前にいっそ散ってしまいたいと。嫌悪さえ覚える夫と一生添い遂げるくらいなら、はかなく散った方がどんなに幸せだろうと。

自分の運命に悲観して、ますます涙が溢れたときだった。
 
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