元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
 
「……僕もお目にかかったけどね、アレはいけないよ。輝かんばかりの見てくれに、品性があって頭の回転まで速いときている。ボナパルティズム運動家達がアレをフランスの王にしようって夢見るのも仕方ない。フランスだけじゃないさ、英雄の血と青い血をひいた美しく聡明な王子を新たな王として迎えたい革命家はヨーロッパ中にいるだろうね。……まったく。やっかいな存在に育ったものだよ。アレは社交界になんか出すべきじゃなかった。一生ホーフブルクの奥に閉じ込めておくべきだったんだよ」

彼が忌々し気に口にした『アレ』が、ライヒシュタット公のことだというのはすぐ分かった。王家の者を悪く言えないから言葉を濁したのか、それとも彼にとってはその名を口にするのも嫌なほど煩わしい存在なのか、それは分からない。

けど、私はセルドニキさんの言葉に憤りを感じずにはいられなかった。

社交界デビューをしたことで、ライヒシュタット公が人並外れた魅力を持ち、驚くほど聡明だという噂はオーストリアだけでなく、ヨーロッパ中に広まり始めている。

そのせいでボナパルティズム運動家やブルボン王政に不満のあるフランス人達が、ライヒシュタット公に近づこうとウィーンに潜入しているらしいとは私も小耳に挟んでいた。

けれど、以前より格段に増えた秘密警察の数やセルドニキさんの苛立ちを見ていると、すでにウィーンには私が思っていたより多くその手の輩が入り込んできているのだろう。

それは確かに危惧すべきことだ。ライヒシュタット公が革命の旗頭に担ぎ出されることは、ウィーン体制にとって大きな脅威となるのだから。

――でも。
 
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