元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
誰かが言っていた。歴史は無数の選択によって枝分かれしていった軌跡だって。そこにきっと、正解なんかないんだ。
ライヒシュタット公が鳥籠から飛び立てなかった歴史で、私は彼の遺した命と平和な未来を作ろう。
この世界で与えられた悠久の命は、きっと大切な人達の想いを次に繋げるためにある。
この激動の十九世紀オーストリアで、私は今度こそ鷲の子を羽ばたかせてみせる。ゾフィー大公妃と、自由を夢見たライヒシュタット公のために。
差し出された手を取らず、吹っ切れた笑顔を浮かべた私に、クレメンス様は「ははっ」と眉尻を下げて笑った。
「宰相か。そうだな、きみならきっとなれる。目指すといい。ただし、簡単ではないことは肝に銘じなさい」
「分かっています。あなたをオーストリア行政のトップから追い落とすには、まだ二十年近くかかりますから」
ニッと歯を見せて笑うと、クレメンス様は「言うようになったな」とますます苦笑した。
そして一度ひっこめた手を伸ばし、私の頬を悪戯っぽくプニと摘まんで言う。
「やっぱりきみはいい女だ。あと三百年くらい夫婦を続けてもいいな」