小さな傷
「もう一度伺うよ。」
次のデートの時に銀次さんが再び言った。
「気持ちは嬉しいけど、父は頑固者だから、急に銀次さんが現れたら、余計に意固地になって許さないと思うの。」
「……。」
「ああいう人は"北風"より"太陽"よ。」
そう言って私の作戦を伝えた。
「あ、失礼。」
「おっ、こちらこそ失礼。」
お互いよそ見をしていて偶然ぶつかった体で顔を合わせた。
最初の出会いの演出として悦子が考えた作戦だ。
その場は一言交わしただけで別れる。
そして次の日、父が出入りしているバーに銀次さんを行かせて
「あ、あれ、昨日の方ですよね。ほらぶつかってしまった。」
「ん?あー貴方か、昨日は失礼した。」
「こちらこそ、よそ見をしていて、特にお怪我などありませんでしたか?」
「怪我?まさかあの程度で。君こそ大丈夫だったか?私はこう見えて筋肉質だから華奢な君のような優男と違って頑丈にできとるよ。あははは。」
「そうですね。明治の方は我々とは違って芯がお強いですからね。」
「おー、よくわかってるな、まぁ、飲みなさい。これは私が奢ろう。」
後から聞いた話ではここまではうまくいってたらしい。
お酒が進むにつれ、銀次さんも少し酔いが回ったため、急に父を騙してるのが、嫌になったようで、
「すみません!悦子さんのお父様ですよね。僕は今悦子さんとお付き合いさせていただいている平方銀次です。偶然を装ってお会いしましたが、なんだか騙し討ちをしているようで、心苦しくなりました!どうか悦子さんとの交際を認めてください!」
その場で深々と頭を下げたとたん
「悦子と付き合ってるだと?何を寝ぼけたことを言っておる。許さん、わしは絶対に許さんぞ!」
「はっ?こんなに真剣に頭を下げているのに?あんたは父親かもしれんが、悦子さんの未来まで決める権利はない!」
その後は飛びかかりそうになった父を店の人が止めて、銀次さんを店から出るように促し、なんとかことなきを得たが、結果は散々だった。
「悦子さん、すまない!」
銀次さんが座っている私より小さくなって謝っている。
「仕方ないです。やはり父は頑固でしたでしょ。それに銀次さんも思っていたより、真っ直ぐな人ですね。」
「本当にすまない!折角悦子さんが作戦を考えてくれたのに。演じきれなかった。」
「もう、いいですよ。やっぱり騙し討ちのようで嫌だったんですよね。今考えると私も父を騙すことにならなくてよかったって思います。」
「悦子さん…ありがとう。」
しかし、これで二人の仲を認められるようになるには相当な障壁ができた。
その後も父には事あるごとに銀次さんとのことを認めてくれるように粘り強く話をした。
でも、父は時に怒り、時に諭すように語り、どれだけ自分が私を大事に思っているか、
姉は父が選んだ方と結婚をして今幸せに暮らしているが、必ずそれを引き合いに出して、
「私に任せておけば間違いはない。」
最後はいつもその台詞を言って居間を立ち去るのがお決まりになっていた。
二カ月、三カ月と経つと流石に辛くなってきた。
「二人で何処かに行ってしまおうか。」
銀次さんが突然言い出した。
久しぶりのデートで、喫茶店でパフェを食べている時に言われ、一瞬かじったりんごが喉に詰まりそうになった。
「え?それって…。」
「そう、駆け落ち。」
「駆け…落ち…。」
銀次さんは私を真っ直ぐに見つめながら頷いた。
それから銀次さんは具体的にどうしたいか、二人でどう生活をするか、など得々と話し、私も聴きながら銀次さんとの二人の生活を想像し、心が動くのを感じた。
次のデートの時に銀次さんが再び言った。
「気持ちは嬉しいけど、父は頑固者だから、急に銀次さんが現れたら、余計に意固地になって許さないと思うの。」
「……。」
「ああいう人は"北風"より"太陽"よ。」
そう言って私の作戦を伝えた。
「あ、失礼。」
「おっ、こちらこそ失礼。」
お互いよそ見をしていて偶然ぶつかった体で顔を合わせた。
最初の出会いの演出として悦子が考えた作戦だ。
その場は一言交わしただけで別れる。
そして次の日、父が出入りしているバーに銀次さんを行かせて
「あ、あれ、昨日の方ですよね。ほらぶつかってしまった。」
「ん?あー貴方か、昨日は失礼した。」
「こちらこそ、よそ見をしていて、特にお怪我などありませんでしたか?」
「怪我?まさかあの程度で。君こそ大丈夫だったか?私はこう見えて筋肉質だから華奢な君のような優男と違って頑丈にできとるよ。あははは。」
「そうですね。明治の方は我々とは違って芯がお強いですからね。」
「おー、よくわかってるな、まぁ、飲みなさい。これは私が奢ろう。」
後から聞いた話ではここまではうまくいってたらしい。
お酒が進むにつれ、銀次さんも少し酔いが回ったため、急に父を騙してるのが、嫌になったようで、
「すみません!悦子さんのお父様ですよね。僕は今悦子さんとお付き合いさせていただいている平方銀次です。偶然を装ってお会いしましたが、なんだか騙し討ちをしているようで、心苦しくなりました!どうか悦子さんとの交際を認めてください!」
その場で深々と頭を下げたとたん
「悦子と付き合ってるだと?何を寝ぼけたことを言っておる。許さん、わしは絶対に許さんぞ!」
「はっ?こんなに真剣に頭を下げているのに?あんたは父親かもしれんが、悦子さんの未来まで決める権利はない!」
その後は飛びかかりそうになった父を店の人が止めて、銀次さんを店から出るように促し、なんとかことなきを得たが、結果は散々だった。
「悦子さん、すまない!」
銀次さんが座っている私より小さくなって謝っている。
「仕方ないです。やはり父は頑固でしたでしょ。それに銀次さんも思っていたより、真っ直ぐな人ですね。」
「本当にすまない!折角悦子さんが作戦を考えてくれたのに。演じきれなかった。」
「もう、いいですよ。やっぱり騙し討ちのようで嫌だったんですよね。今考えると私も父を騙すことにならなくてよかったって思います。」
「悦子さん…ありがとう。」
しかし、これで二人の仲を認められるようになるには相当な障壁ができた。
その後も父には事あるごとに銀次さんとのことを認めてくれるように粘り強く話をした。
でも、父は時に怒り、時に諭すように語り、どれだけ自分が私を大事に思っているか、
姉は父が選んだ方と結婚をして今幸せに暮らしているが、必ずそれを引き合いに出して、
「私に任せておけば間違いはない。」
最後はいつもその台詞を言って居間を立ち去るのがお決まりになっていた。
二カ月、三カ月と経つと流石に辛くなってきた。
「二人で何処かに行ってしまおうか。」
銀次さんが突然言い出した。
久しぶりのデートで、喫茶店でパフェを食べている時に言われ、一瞬かじったりんごが喉に詰まりそうになった。
「え?それって…。」
「そう、駆け落ち。」
「駆け…落ち…。」
銀次さんは私を真っ直ぐに見つめながら頷いた。
それから銀次さんは具体的にどうしたいか、二人でどう生活をするか、など得々と話し、私も聴きながら銀次さんとの二人の生活を想像し、心が動くのを感じた。