敵国騎士と命懸けの恋
静かにカーテンを閉めて自分のベッドに戻った。少し歩いただけでひどく疲れた。まだ体力は戻っていないらしい。
「弟がひとり」
主語のない颯真さんの言葉は、聞こえないフリをした。
無理して教えてくれなくてもいい。
目を閉じて寝たふりを決め込む。
「唯一の家族なんだが、嫌われててな。殺生を重ねる俺を軽蔑したような目で見るんだ」
薄目を開けて確認すると、颯真は自身の右手を見つめていた。まるで洗い流せない血がまだ付いているかのように。
「国のために戦っているのでしょう。あなたが悪いわけではないわ。弟さんもそう理解しているはずよ」
口を挟まずにはいられなかった。
騎士が背負う苦しみを今までもずっと見てきた。父に隠れて男のフリをして戦場に向かったこともある。
緊迫した戦場では、常識も正論も通用しない。生きるか死ぬか、ただそれだけの世界だった。
「悪いのは王族よ。戦うことでしか生き残る術を見出せない、頭の悪い王族が居るせいなの」
「だが飛護国王は考えて考えて、それでもどうしようもなく戦っていることを知っているから、俺はあの人に付いていく」
ーーだから、おまえは助けられない。
そう言われているような気がした。
飛護国王に逆らえないのだ、颯真は。
それが騎士としての王への忠誠であり、彼の固い決意なのだろう。