Q. ―純真な刃―
――神雷が立ち去った、5分後。
静寂に包まれたトンネルに、ほの暗い影が覆う。
ジャリ……。
黒いブーツがガラスの破片を踏み潰す。
いやな光をまとった状態で、痛みにうなされた犯罪者に接近していった。
「……ひと足遅かったか」
色濃くしみついた硝煙。
かすかに漂う薔薇の匂い。
ざっと辺りを見渡すと、捨て置かれた銃を発見した。慣れた手つきで銃の部品を開いていき、内臓されたチップを取り除く。
赤いランプの点いたソレは、改造されたGPSだ。それを頼りにここまで来たのだが、どうやら何もかも終わったあとらしい。
後々面倒なことにならないよう、チップを粉々に壊した。
鮮血に染まる三人の男を一瞥し、ふ、と白い息を吐き捨てながら、指名手配犯の携帯を盗み取る。
懐中電灯の切れかけた明かりで、人影の正体が浮き彫りになる。
それでも姿は変わらず闇と一体化していた。
全身黒の装束。目深にかぶったフード。
しいて、しっかりとした体つきから、男とわかる程度で、肌の露出はほとんどない。
フードの隙間から、何かがきらりと反射した。
夜が更ける。
日付が変わる。
パトカーのサイレンが、静かな山の中をこだまする。
用事を済ませた謎の男は、足早にトンネルを去っていく。
ポケットに盗んだ携帯をしまいこんだ手は、きれいな赤い爪をしていた。