Q. ―純真な刃―
「この調子で、ラスト4着目いこう!」
スタッフのかけ声で、迅速に準備が始まった。
最後は、チェック柄で合わせたシミラールック。並木道を歩きながら、自然体の様子をおさめていく。
シャッター音につられ、ざわざわと周囲がにぎやかになっていった。
「何だろう、撮影?」
「モデルさんかな」
「わあ、美形」
「かっこよ」
「Wow! Cool! Beautiful!」
知らぬ間に、対向車線の歩道に学生の列ができていた。
最寄り駅までの一本道を下校中、撮影現場に興味を引かれ、ひとりまたひとりと足を止めている。
放課にしては少し早い気がするが、サボりにしては人が多すぎる。
(てか、最後の声、聞き覚えがあるような……)
成瀬はどこか引っかかりを覚えながら、なんだっけ、まあいっか、と流しかけた……が。
「ミスターナルセ! You are handsome!」
(お前か、汰壱!!)
強制的に正体を知るはめになった。
車道を挟んだ向こう側から両手を大きく振る少年に、強烈な羞恥心が駆けめぐった。
そういえば、この近くには白薔薇学園がある。
よく見れば、学生たちはみな、アウターの下に淡いクリーム色の制服を着ている。
こんな偶然、誰が望んだのか。
調子がいいと褒められたばかりだというのに、早くも成瀬は萎えている。全部あいつのせいだ。
「熱狂的なファンがいるね」
「あれ、白薔薇学園の子よね?」
「同性の心もつかむとは、さすが円くん」
「サインでもしてくれば?」
いやぁ、と渋る成瀬を、スタッフは保護者のような眼差しで後押しする。
編集部の間では、あまりファンサしないダウナー系男子として共通認識されている成瀬に、あんなにも猛烈なラブコールを送るメンズのファンがいることは、なんとも喜ばしいニュースである。きっと、当分、この話題で部内は持ちきりだ。
「すみません。じゃあ、ちょっとだけ」
どうぞどうぞと送り出された成瀬は、ダッシュで横断歩道を渡り、奴の元へ向かう。
黄色い声がひしめく中、栗色のマッシュヘアがひときわうるさく騒ぎ立てていた。
「モデルモードのミスターナルセ! I'm so happy to see you!」
「やめろよ恥ずかしい!」
「Why⁉ ボクは思ったことしか言ってません! キミに夢中です!」
「すげえ語弊。ミーハーなだけだろ」
「あちらにいらっしゃるのは、RIOくん? 【純真な刃】に出演すると噂のアクターですよね!?」
「はいはいそうですね静かにしましょうね」
「セーイチロー殿は!? いずこに!?」
「いるわけねえだろ。落ち着けオタク」
キミに夢中ですと言ったそばから、よそ見ばかり。本妻に寵愛を注ぎながらも、何人も愛人を囲む浮気性な旦那のよう。昼ドラかよと、成瀬は肩をすくめた。
「会いたきゃふつうに家行きゃいいだろ、親戚なんだし」
「あれ? ボクとセーイチロー殿の関係、知っているんですね。そうなんです、セーイチロー殿はボクの叔父なんですが、リスペクトするようになったのは物心つく前で……」
「うわ、長くなるやつだこれ」
聞いてもないのに勝手に思い出に浸り出すところ、本当にそっくりだ。
成瀬は鏡を見ずとも、今自分がうげえって顔をしている自覚があった。