不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「仕事?そんなに必死にならなきゃならんっていうのは、自分の能力がないって言っているのと同義だぞ」

おじいさまは嘲るように言う。もともとこういう物言いをする人なのは知っているけど、自分の祖父だったら嫌だ。今は斎賀の当主だから仕方なく我慢してるだけ。私も分家の人間だもの。

「豪も翠さんもとても頑張っています。俺は助かっていますよ、父さん」

局長が助け船を出してくれる。局長からしたら父親だけど、気楽な親子関係でないのは見て取れる。おじいさまは局長の自由な精神が気に入らないと聞いている。特務局局長としても人間としても斎賀猛さんは、この因習だらけの一族においては異質な奔放さがある。私はそういうところが好きなんだけど。

「おまえが助かっても、私のプラスにはならん」

すげなく言って、おじいさまは続ける。

「翠嬢が特務局の仕事を知るのはいいことだ。特殊な業務だし、無理解な者では嫁は務まらん。しかし、実務なんぞ数年で充分だ。聞けばふたりの結婚は30歳頃と言うじゃないか。そんなに長く翠嬢に仕事をさせるな。早く養ってやれ」

さらっと当たり前のように『女は家庭に入って家族を支えるもの』という意見を打ち出してくる。
別に個人の考え方だから否定しないけど、前時代的な考えってことは確かだ。おじいさま、今は女性も社会進出しているんですよ。
確かに専業主婦という24時間勤務は尊い仕事だ。私の母は女優業引退後は専業主婦だった。でも、それが女の幸せと決めつけるのは違うと思う。

っていうか、専業主婦には専業主婦の、兼業主婦には兼業主婦の大変さがあるでしょ。そのへんまるっと無視して、養ってやればいい、みたいな言い方しないでほしい。
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