別れの曲

　金曜日、夜の「NOTES」は、人々が談笑する音、グラスを交わす音が交わった、賑やかな場所だった。その心地よいざわめきの間を縫うようにして、彼の奏でるピアノの旋律がゆったりと流れる。それはゆるやかに流れるセーヌの流れのように優雅で、人々は無意識のうちにその流れに身を任せていた。

　芹沢歩は、大学在学中から、「NOTES」でアルバイトをし、卒業後もそこで働いていた。中学生の時、幼いころからピアノを習っていた彼は、「NOTES」でウエイターのみならず、夜の時間帯には、ピアノマンとしても働いていた。マスターの趣味で、「NOTES」は夜になると、レストランからジャズクラブへと変身をした。