別れの曲
 その日は、1月の中旬だった。冬真っ盛りで、店を訪れる客たちは皆分厚いコートに身を包み、暖炉をモチーフにしたNOTESの電気ストーブは毎日忙しく働いていた。

 夜の9時になり、イタリアンレストランNOTESは、ジャズクラブNOTESへと姿を変えた。ウエイターをしていた歩は給仕服からタキシードに着替え、ピアノの前に座った。

 その日もマスターに教えてもらったジャズのスタンダードナンバーを何曲か弾いて、“Fly me to the moon”で締める予定だった。店内には、仕事帰りのビジネスマン、カップルなど、様々なジャンルの客がいた。

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